樋口一葉と水仙/樋口一葉小説第六作品「経づくえ」のあらすじ

 

「経机」とは読経の時に経文をのせる机のことで、この小説は主人公の香月 園がなぜ部屋に経机を置く身となったかという由縁がストーリー化されている。

あらすじ

一人の美女が部屋に経机を置き、香を絶やさぬ身となったのは何故だろうか。
香月 園は父左門は幕臣で、上野戦争で死に、母も彼女が十四歳の時に病死した。その病床をみとったのが、左門の友人の子松島忠雄で、その後、彼は二年間にわたって彼女を養育しようとしたのである。彼は医科大学の内科の助手として評判すこぶるよく、三十前という年齢のゆえもあってか、娘を持つ親たちから縁組を求められこと切であった。が、彼は縁談には見向きもせず、ひたすら園の育成に情熱を傾けた。一方、彼女はそんな松島を嫌い、乳母の忠告にも耳をかさず、二年間も彼に好い顔を見せなかった。そんな彼女も松島が札幌の病院長に赴任し、東京を去る間際になって、はじめて彼への愛に気づき、別離を悲しんだ。松島は黄金の指輪を残して旅だったが、その秋にチブスに感染し、はかなく生を終えてしまう。以後、園は言わば有髪の尼として経机に香をたやさぬ身となったのである。この由縁を考えると、何とも意地の悪い世であることか。

樋口一葉」 小説編より




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