樋口一葉と水仙/樋口一葉小説第五作品「うもれ木」のあらすじ

 

「うもれ木」は長い間地層に埋れて化石のようになった樹木をさすが、世間から見捨てられ、顧みられない境遇のたとえとしてよく用いられる。一葉は世に見捨てられた身の比喩としてこの語を愛好していたようである。

あらすじ

入江籟三(二十八歳)は陶器画工だが世に埋れ、赤貧の生を送っている。その兄を助け、家計をきりもりしているのが、妹のお蝶(十七歳)である。
こうしたふたりの生活を助け、籟三に海外博覧会への出品をすすめるべく登場するのが、かつての相弟子の篠原辰雄(二十九歳)である。籟三は辰雄に感謝しつつ薩摩の金襴陶器の画に打ちこみ、お蝶はいつしか辰雄を慕うようになる。しかし、辰雄の好意は全て博愛病院設立の名目で寄付金を集め搾取することに発しており、お蝶をその道具に使うべく籟三を援助したのである。その計画を籟三が知った時には、お蝶は辰雄からある有力者に身を捧げてくれと頼まれ、苦悩のはてに家出をしていた。辰雄に裏切られ、お蝶を失った籟三は憤怒にかられて完成した花瓶の陶画に見入るうち、いつしかその画の中に入り、美しさに酔いしれていく。そして花瓶を抱きしめ、「いざ共に行かん」と、それを庭石にたたきつけ、虚しい笑いをひびかせた。

全集 「樋口一葉」 小説編より




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