樋口一葉と水仙/樋口一葉小説第三作品「たま襷」のあらすじ


 

「たま襷」は「たすき」の美称で、たすきをかけることから「かけ」にかかる枕詞として用いられる。
ふたりから思いをかけられて苦しむ主人公の内面を象徴する題名。

あらすじ

青柳いと子は旗本青柳右京の孫で、世が世ならば姫とも呼ばれる身なのだが、維新の世に生れ両親にも乳母にも死に分かれ、ひとりはかなく十九年の世を送っている。谷中のの屋敷と公債だけが残されたいと子にとって唯一人頼りにするのは代々の家臣松野雪三であった。雪三は三十五、六歳の今日まで、ただひたすらいと子の養育に身を捧げてきたのである。雪三は熱心に婿を探すのだが、いと子は全く気にかけず「蝶になりたい」などとりとめのないことを言って暮らしている。しかし、ある夏の夜、庭で蛍を追ういと子は卯の花ごしに美少年に声をかけられ、陶然とする。初めて恋を知ったいと子は雪三の訪れさへわずらわしく思うのだが、そんな心をすぐに反省し、雪三に「頼りはお前一人」と甘えたりした。一方、美少年は竹村子爵の次男で緑という名だが、やはり恋のとりこになり、母の手を通して正式にいと子に求婚する。しかし、いと子の言葉から一途に彼女への恋情をたかぶらせた雪三はこれを拒否し、彼女の夫は私に決まっていると断言する。これを盗み聞いたいと子は緑と雪三の愛のはざまに苦悩し、ついに自害を決意するのであった。

全集 「樋口一葉」 小説編より





樋口一葉が執筆した小説22作品に戻る

 

樋口一葉と水仙のトップはこちらから