樋口一葉と水仙/一葉さんを偲んでNO3

>2001/12/08

 


先生の講演が終わると、今度は幸田弘子先生の朗読。
私はなるべくお顔を拝見しながら朗読を聞きたかったので、
一葉記念館の中に入ってみた。
席を立たれた人もいたので、集会室に敷かれたゴザに座れそうな空きスペースがあった。
中に入ろうとしたら、「今お手洗いに行っているので・・」といわれ、入るのをあきらめようとした。
その時、幸田先生が、
「どうぞ入り口近くにいらっしゃる皆さん、中にお入り下さい!
前の方からもはいれますのでどうぞ前にいらして下さい!」

そう言われ、入り口近くにいた何人かは前の方に行った。
私は前の方の席は落ち着かないので、後ろの入り口から中に入らせてもらった。

ゴザに座って正座して、いよいよ先生の朗読がはじまる。
先生は朗読の前に必ずお話をして下さる。

今回はご自分が大病をなさったこと、そして生死の境をさまよったこと、
そして寂聴さんが祈って下さったので助かったこと、などなどお話して下さった。
不安な情勢の世の中で、こんなに天気の良いおだやかな日に
一葉祭で朗読できることの幸せをとてもありがたいと感謝していらした。

そして、一葉の小説は若い人が読んでくれなければ、次の世につながっていかない。
ぜひとも若い人が一葉の小説を読んでくれるよう、
朗読してくれる若い人を育てる為に、最近は学校で教えていることなどを話して下さった。
私は、いつも朗読で聞く声とは違って、とてもやさしい声、やさしい話し方なので驚いた。

いよいよ先生の朗読。
先生は「今日は空気が乾いてますか?」とおっしゃって、さかんにのどを気になさっていた。
会場の人から励ましの声がかかる。
にこりとなさって、一呼吸おかれてから朗読に入った。

今日の朗読は「大つごもり」だ。
まるで違う世界にでも入ったかのように一葉の世界に引き込まれる。
知っている筋書きだけれどやはり朗読だと違う世界になる。
幸田弘子先生の朗読は迫力がある。
きのうまで、病に倒れていた方とはとても思えなかった。



「・・・・孝の余徳は、我れ知らず石之助の罪になりしか、いやいや知りて序に冠りし罪かもしれず。
さらば石之助はお峯が守り本尊なるべし。後の事しりたや。」

で朗読は終わった。
会場は割れんばかりの拍手。
私も涙が出る程感動した。


これですべて一葉祭は終わった。
私はいつもの通り、幸田先生のCDと今回は源氏物語のテープを購入してしまった。
もちろん幸田先生のサインもいただいた。
もう一度、記念館に展示してある品々をゆっくり見て一葉記念館を後にした。

家に帰って食事の支度をしながら『裏紫』のテープを聞いた。
幸田先生の朗読は没後100年を記念して出された時のものだったようだ。
『裏紫』の朗読の前に先生は

「この『裏紫』が完成していたら、まったく違った一葉が生まれていたのではないでしょうか?」

と前置きしてらした。
ほんとうに一葉にとって病に倒れたことは、さぞかし無念なことだったろうと思わずにはいられなかった。

 

 

こんなふうに私の11月23日は過ぎていったのでした。
この文章を書きながら、慣れないせいか、いかに文章を書くということが大変なことか痛感しました。

素敵な作品を残して下さった樋口一葉さんに改めて感謝致します。
そしてまた来年も必ずあなたに会いに行きます。
また来年も一葉忌、一葉祭に参加できますように・・・ 

 

行水のうきなも何か木の葉舟

        ながるるままにまかせてをみん  
                  
                     
樋口一葉


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