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あらすじ 上野の鐘が九時を知らせるのを聞きつつ、袖は夫の帰りを案じざるを得ない。子供たちのために残業をしている夫の身体を心配しつつ、彼女は軒ばの月に眺め入り、ため息をもらすのである。 彼女の脳裏には、かつて小間使いとして仕えていた桜町の殿の面影がやきつて離れない。自分を愛し、職工のの妻となった今でも、幾たびも手紙で愛を求めてやまない殿のことが忘れられないのである。 もちろん、袖は律義で子煩悩な夫や幼い乳のみ児を妻や母として愛しており、手紙をひらくことすらしていない。 しかし、袖は殿の面影を消し去らないのでは、二心の不貞の女子と言われても仕方がないと思い悩む。 ついに彼女は手紙を読むことで自分の心の清濁をはっきりさせようとする。 激しい愛の言葉に眼をさらしつつ、袖はしだいに放心状態におちいっていく。 殿も夫も子供も私にとっていったい何だというのか、と彼女は虚無的に高く笑い、淡々と手紙をちぎり、炭火に投げ入れる。 そんな彼女を軒もる月光が清々しく照らしだすのである。 |
全集 「樋口一葉」 小説編より
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